地域の祭りやイベントでPAを行う場合、パッシブスピーカーとパワーアンプを組み合わせたシステムから、アンプとDSPを内蔵するパワードスピーカーへ変更すると、機材点数や配線を大幅に減らせます。近年は比較的低価格な15インチモデルでも高出力のClass-DアンプやDSPを搭載した製品が増えており、司会、ダンスBGM、小規模ライブまで1組のスピーカーで対応しやすくなっています。
ただし、カタログにある「1000W」「1400W」といったアンプ出力だけでPA能力を判断するのはおすすめできません。屋外イベントでは最大音圧、指向角、低域再生能力、リミッター、DSP、サブウーファーとの接続性、信頼性なども重要です。ここではBEHRINGER DR115DSP、MACKIE Thumpシリーズ、YAMAHA DBR15などを例に、低予算でPA用パワードスピーカーを選ぶポイントを解説します。
パワードスピーカーにするとPA機材はどこまで簡略化できる?
パワードスピーカー最大のメリットは、スピーカーごとに適切なパワーアンプが内蔵されていることです。従来の「ミキサー→パワーアンプ→スピーカー」という構成を、「ミキサー→パワードスピーカー」というシンプルな構成にできます。
例えばSoundcraft Ui16のようなデジタルミキサーを使っている場合、メイン出力から左右のパワードスピーカーへラインレベルの信号を送れば基本的なFOHシステムが完成します。重量のあるパワーアンプラックや太いスピーカーケーブルを持ち運ぶ必要がなくなるため、少人数で設営する地域イベントでは特にメリットがあります。
一方でパワードスピーカーには各スピーカーへのAC電源が必要です。屋外では音声ケーブルだけでなく電源ケーブルもステージ周辺へ引くことになるため、ケーブル養生、防雨、電源容量、アースを含めた安全な電源設計が重要になります。
BEHRINGER DR115DSPは低予算PAの候補になる?
BEHRINGER DR115DSPは15インチウーファーと1.4インチ・チタンダイアフラムのコンプレッションドライバーを搭載したパワードPAスピーカーです。メーカー公称ではClass-Dアンプを搭載し、最大音圧は130dB peak。DSPによるEQや用途別プリセット、クロスオーバーなども備えています。[参照]
そのため、司会の音声、イベントBGM、ダンス用途などを中心に考えるなら、DR115DSPを左右2本使用する構成は十分検討対象になります。従来のパワーアンプを持ち込まずに済む点も、機材簡略化という目的と相性が良いでしょう。
ただし「15インチ・大出力だからバンドでも必ず余裕がある」とは限りません。特に屋外でキック、ベース、電子ドラムなどの低域までFOHから大音量で出す場合、15インチフルレンジ2本だけでは低域の音圧やヘッドルームが不足することがあります。バンドPAまで視野に入れるなら、将来的に18インチ前後のパワードサブウーファーを追加できる構成にしておくと発展性があります。
MACKIE Thump215・Thump215XTも有力な低価格帯モデル
MACKIE Thump215は15インチウーファーを搭載する1400Wクラスのパワードスピーカーで、公称最大音圧は129dB、周波数特性は40Hz~23kHz(-10dB)です。フィードバックエリミネーターやMusic Duckingも搭載しているため、イベントPAで使いやすい設計になっています。[参照]
注意したいのは、通常のThump215と上位のThump215XTでは機能が異なることです。Bluetoothによるストリーミングやアプリコントロール、複数のVoicingモード、Outdoorモードなどを備えているのはThump215XTです。単に「Thump215」と覚えて購入すると、期待していたBluetooth機能がないということもあり得ます。[参照]
特に屋外PAではXTモデルのOutdoorモードは興味深い機能です。ただし、BluetoothはBGM再生などには便利でも、本番PAのミキサーからメインスピーカーへの伝送は基本的にバランス接続の有線XLRを使うほうが安定性や遅延の面で安心です。
予算を少し上げられるならYAMAHA DBR15も比較したい
価格だけではなくPA機材として長く使用することを重視するなら、YAMAHA DBR15も比較候補です。15インチウーファーを搭載し、公称最大音圧は132dB SPL。アンプはClass-Dでダイナミック出力1000W、連続出力465Wとされています。[参照]
DBR15にはFOH/MAIN、MONITORなどを選択できるD-CONTOURや、100Hz・120HzのHPFも搭載されています。将来サブウーファーを追加するときにも、トップ側の低域をカットして運用しやすい仕様です。
例えば「今年だけ使えればよい」のではなく、地域イベントを毎年担当し、設営・撤収を繰り返す用途なら、単純な購入価格だけでなく耐久性、メーカーサポート、補修性まで含めて比較するとよいでしょう。低価格モデルとの差額を数年間の使用回数で割ると、1回あたりの差は意外に小さくなることがあります。
15インチ2本でバンドPAはできる?
「バンド対応」という言葉は非常に幅が広いため注意が必要です。ボーカル、アコースティックギター、キーボード程度をPAへ送る小編成なら、15インチのパワードスピーカー2本でも比較的対応しやすいでしょう。
一方、ドラム、エレキベース、ギター、キーボード、複数ボーカルなどをすべてPAへ送り、屋外でライブらしい音圧を出そうとすると条件が大きく変わります。特にキックとベースは大量の低域エネルギーを必要とします。
例えばダンスBGMを大きな音で鳴らしたとき、「音量は十分なのに低音だけ物足りない」という状況があります。この状態でトップスピーカーの低域EQを持ち上げ続けると、アンプやウーファーの余裕を消費し、リミッターが早く作動する原因になります。この場合はトップをさらに大型化するより、専用サブウーファーを追加するほうが合理的です。
W数より最大音圧とシステム全体を見ることが重要
パワードスピーカーを比較するときによくある失敗が、「1400Wだから1000Wより大きな音が出る」と考えることです。メーカーによってPeak、Dynamic、Continuousなど出力の表記方法が異なるため、W数だけでは異なるメーカーの製品を公平に比較できません。
PA用途なら最大SPLも重要な目安になります。例えばメーカー公称値ではDR115DSPが130dB peak、MACKIE Thump215が129dB、YAMAHA DBR15が132dB SPLとなっています。ただし測定条件やメーカーごとの表記方法も確認する必要があり、数値だけで実際の音質や遠達性まで決まるわけではありません。
| モデル | LF | 公称最大音圧 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| BEHRINGER DR115DSP | 15インチ | 130dB peak | DSP搭載で低予算システムを構築しやすい |
| MACKIE Thump215 | 15インチ | 129dB | 軽量でイベント・DJ用途にも使いやすい |
| MACKIE Thump215XT | 15インチ | 129dB | Bluetooth、アプリ制御、Outdoorモードなどを搭載 |
| YAMAHA DBR15 | 15インチ | 132dB SPL | FIR-X、D-CONTOUR、HPFなどPA向け機能が充実 |
低価格PAスピーカーを選ぶときは、アンプのW数だけではなく、最大SPL、指向角、DSP、重量、入出力、保証、サブウーファー追加時の構成まで比較することが重要です。
屋外の祭りではスピーカーの台数より配置も重要
地域の祭りでは、体育館やライブハウスとは違って壁からの反射音を期待できません。また観客エリアが横長だったり、ステージから遠くまで音を届ける必要があったりするため、単純に15インチスピーカー2本を大音量で鳴らせば解決するとは限りません。
一般的なポイントソース型PAスピーカーは水平90度前後の指向角を持つ製品が多く、MACKIE Thump215やYAMAHA DBR15も公称水平90度です。客席の形状に合わせて左右のスピーカーの向きと高さを調整することが重要になります。
広い会場でスピーカーを追加する場合も、同じ場所に複数台を適当に並べると音が干渉して場所によって音量・音質にムラが発生する可能性があります。既存のパッシブスピーカーを捨てず、必要に応じて別エリアへの補助スピーカーとして活用する方法もありますが、距離が離れる場合はディレイ調整を含めたシステム設計が必要です。
既存のパッシブPAはすぐ処分しなくてもよい
パワードスピーカーを導入しても、現在所有しているパッシブスピーカーとパワーアンプを直ちに処分する必要はありません。小規模イベントではパワード2本だけ、大きなイベントでは既存システムも投入するといった使い分けができます。
特にモニタースピーカー用途では既存機材を再利用できる場合があります。メインFOHだけをパワード化すれば、搬入するアンプラックやスピーカーケーブルを減らしつつ、必要なイベントでは従来機材を追加できます。
段階的に更新するなら、まず15インチパワードスピーカーを2本導入し、実際の祭りやダンスイベントで不足する帯域や音圧を確認します。そのうえで低域が不足するならサブウーファー、出演者側の音が不足するならモニターを追加する方法が、予算を無駄にしにくいでしょう。
低予算なら何を優先して選ぶべきか
司会とダンスBGMが中心で、ときどき小規模バンドという用途なら、最初から非常に高価なシステムを購入する必要はありません。BEHRINGER DR115DSPのような15インチDSP搭載モデルを2本から始める考え方は合理的です。
一方、イベントの開催回数が多く、屋外で長時間使用し、今後もPAを続ける予定なら、MACKIE Thump215XTやYAMAHA DBR15なども実売価格を比較する価値があります。購入価格だけでなく、1本の重量、持ちやすさ、設営時間も実務ではかなり重要です。
また、予算が限られている場合でも、スピーカー2本に予算をすべて使い切らず、スタンド、XLRケーブル、電源ケーブル、ケーブルプロテクター、運搬用ケースなどを含めた総額で考えることをおすすめします。屋外PAではスピーカー本体以外の設備が安全性と運用性を大きく左右します。
まとめ|DR115DSPは有力候補。ただしバンド用途ならサブ追加も考える
祭りの司会、ダンスBGM、小規模なバンドPAを低予算で行い、現在のパワーアンプを使ったシステムを簡略化したい場合、15インチのパワードスピーカー2本は現実的な選択肢です。BEHRINGER DR115DSPはDSPを内蔵し、公称最大130dB peakの仕様を持つため、価格次第では有力な候補になります。
同時にMACKIE Thump215・Thump215XTやYAMAHA DBR15も比較すると、必要な機能と予算のバランスを判断しやすくなります。Bluetoothやアプリ操作を重視するならThump215XT、PAとしての最大音圧や定番性を重視するならDBR15といったように、用途によって優先順位は変わります。
最も重要なのは「1400W」という数字だけで決めないことです。司会とBGMなら15インチ2本から始めやすい一方、屋外でダンス音源の低音をしっかり出したり、ドラムやベースまで含むバンドをPAしたりするなら、将来的なパワードサブウーファー追加まで想定して選ぶと長く使えるシステムになります。


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