真空管アンプを自作したり、交換用トランスを選んだりするときに「6V6シングル用」「EL34プッシュプル用」などと表記された電源トランスを見かけることがあります。これらの表記は単純に使用する真空管の種類だけを示しているわけではなく、アンプ回路の方式や必要な電源容量を考慮したものです。
この記事では、真空管アンプ用電源トランスに書かれている「シングル用」「プッシュプル用」の意味、ステレオ分の電流を考慮しているのか、トランス選びで注意すべきポイントについて詳しく解説します。
真空管アンプ用電源トランスの「○○用」という表記の意味
電源トランスに記載されている「○○シングル用」「○○プッシュプル用」という表記は、その真空管を使った代表的なアンプ回路で必要になる電圧や電流容量を基準に設計されていることを意味します。
例えば「6BQ5(EL84)シングル用」と書かれた電源トランスの場合、EL84を1本使ったシングルアンプで必要になるB電源(高圧電源)やヒーター電源の容量を想定しています。
一方、「EL34プッシュプル用」であれば、EL34を2本または複数本使うプッシュプル回路で必要になる電流量を供給できるように設計されています。
シングルアンプとプッシュプルアンプで必要な電源容量は違う
シングルアンプとは、出力管を1本だけ使用して音声信号を増幅する方式です。回路が比較的シンプルで、真空管独特の柔らかい音が楽しめる一方、出力は小さめになります。
例えば6V6シングルアンプでは、1本の6V6が動作するために必要なプレート電流やヒーター電流を供給できればよく、比較的小型の電源トランスでも対応できます。
対してプッシュプルアンプでは、2本以上の出力管を組み合わせて動作させます。そのため出力管の数が増え、B電源の電流容量やヒーター電源の容量も大きく必要になります。
電源トランスはステレオ2チャンネル分を考慮しているのか
「○○シングル用」「○○プッシュプル用」という表記だけでは、必ずしもステレオ用という意味にはなりません。多くの場合、その表記はモノラルアンプ1台分の容量を基準にしています。
例えば「EL34プッシュプル用」と書かれた電源トランスの場合、一般的にはEL34を使用したプッシュプル回路1チャンネル分を想定しています。ステレオアンプとして左右2チャンネル分を作る場合は、基本的には2台分の電源容量が必要になります。
ただし、メーカーによってはステレオアンプ用として余裕を持たせた容量で設計された電源トランスもあります。そのため、購入前には仕様表に記載されたB電源電流容量やヒーター電流容量を確認することが重要です。
ステレオ真空管アンプで1台の電源トランスを使う場合の考え方
ステレオ構成の真空管アンプでは、左右2チャンネル分の真空管を動作させるため、必要な電流量はモノラルアンプの約2倍になります。
例えば、片チャンネルで出力管2本を使用するEL34プッシュプルアンプの場合、ステレオでは合計4本のEL34を動作させることになります。その場合、電源トランスには4本分のヒーター電流とプレート電流を供給できる能力が必要です。
容量不足の電源トランスを使用すると、B電圧が低下したり、トランスが発熱したり、音質や安定性に悪影響が出る可能性があります。
電源トランス選びで確認すべきポイント
真空管アンプ用の電源トランスを選ぶ場合、「○○用」という名前だけで判断せず、以下の仕様を確認することが大切です。
- 高圧巻線(B電源)の電圧と許容電流
- ヒーター巻線の電圧と電流容量
- 使用する真空管の本数
- シングルかプッシュプルか
- ステレオかモノラルか
例えば、EL84を左右2本ずつ使うステレオプッシュプルアンプを製作する場合、「EL84プッシュプル用」と書かれたトランスでもモノラル向けなら容量不足になる可能性があります。
その場合は、左右2チャンネル分の電流を合計しても余裕がある容量のトランスを選ぶ必要があります。
出力トランスの表記との違いにも注意
真空管アンプでは、電源トランスだけでなく出力トランスにも「○○用」という表記があります。こちらはスピーカーへ信号を渡すためのトランスであり、電源容量とは別の基準で選ばれます。
例えば「EL84プッシュプル用出力トランス」は、EL84を使ったプッシュプル回路の出力インピーダンスや出力電力に合わせて設計されています。
電源トランスと出力トランスは役割が異なるため、それぞれの仕様を確認して組み合わせる必要があります。
まとめ
真空管アンプ用電源トランスに書かれている「○○シングル用」「○○プッシュプル用」という表記は、その真空管を使った代表的な回路に必要な電源容量を示したものです。
一般的にはモノラルアンプ1台分を基準にしていることが多く、ステレオアンプを作る場合は左右2チャンネル分の電流容量を考慮する必要があります。
トランスを選ぶ際は名称だけで判断せず、使用する真空管の本数、回路方式、B電源容量、ヒーター容量を確認することで、安定した真空管アンプ製作につながります。

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