以前ならWebブラウザを開いて検索・予約・確認できたサービスでも、最近は「アプリをダウンロードしてください」「続きはアプリで確認してください」と案内されることがあります。普段PCを中心に使っている人にとっては、スマートフォンを取り出し、アプリストアで検索し、インストールし、ログインまで求められる流れを面倒に感じるのも自然です。
企業がスマートフォンアプリを重視するのには理由があります。スマートフォンならカメラ、位置情報、生体認証、プッシュ通知、決済機能などを利用しやすく、サービス提供側にとっても継続利用してもらいやすいからです。
一方で、「スマホアプリのほうが便利な人が多い」ことと「PCやWebから利用できなくしてよい」ことは別問題です。利用者の端末や得意な操作方法はさまざまであり、本来はWeb・PC・スマートフォンなど複数の入口を用意するほうが利用しやすいサービスになります。
- なぜ世の中は「スマホ中心」になったのか
- アプリならスマートフォン固有の機能を使いやすい
- 企業にとって「プッシュ通知」が大きなメリット
- 「アプリ限定」にすると企業側が顧客を囲い込みやすい
- PCなら数秒なのにスマホでは手順が増えることもある
- PCは大量の情報を比較するときに強い
- 「スマホを持っている=スマホ操作が得意」とは限らない
- アプリ必須化はデジタルデバイドを広げることがある
- 実際にアプリは古いスマートフォンを切り捨てることがある
- アプリを増やしすぎるとスマホ側にも負担がかかる
- アプリごとに会員登録を要求される問題
- アプリには権限とプライバシーの問題もある
- Webブラウザには「インストール不要」という大きな長所がある
- 検索エンジンから情報を見つけられるのもWebの強み
- アプリのほうが本当に向いているサービスもある
- 「アプリがあること」と「アプリを強制すること」は分けて考える
- 公共サービスほど複数の利用方法を残す価値がある
- PCを使いたい人は「Web版」がないか探してみる
- QRコードだけ表示されている場合もURLを確認する
- PWAならWebとアプリの中間的な使い方もできる
- サービス提供側が考えたい設計
- 利用者にアプリを入れさせるほど便利なのかを考える必要がある
- スマホ中心社会でもPCが不要になったわけではない
- スマホ至上主義への違和感はアクセシビリティの問題でもある
- 理想は「スマホファースト」ではなく「利用者が選べること」
- まとめ:スマホ中心になる理由はあるが「何でもアプリ必須」が最適とは限らない
なぜ世の中は「スマホ中心」になったのか
最大の理由は、スマートフォンが多くの人にとって最も身近なインターネット端末になったことです。外出先でも常に持ち歩き、買い物、地図、交通、銀行、動画、SNS、行政手続きなど幅広い用途に使われています。
企業側から見ると、ユーザーが常時持ち歩く端末に自社アプリを入れてもらえれば、Webサイトだけを提供するよりサービスへ戻ってきてもらいやすくなります。
例えば通販サイトなら、ブラウザで検索されて商品を一度購入して終わるより、アプリをホーム画面へ置いてもらい、新商品やセール情報を通知できるほうが継続利用につながります。このような事情から「まずスマホ」という設計が増えています。
アプリならスマートフォン固有の機能を使いやすい
Webサイトでも多くのことができますが、スマートフォンアプリは端末の機能と深く連携しやすいという利点があります。
例えばカメラでQRコードや本人確認書類を読み取る、GPSで現在地を取得する、Face IDや指紋認証を使う、Bluetooth機器と接続する、スマートフォンへ通知を送る、といった機能です。
銀行や決済サービスでは、端末の生体認証やセキュリティ機能を利用できることもアプリを採用する理由になります。
企業にとって「プッシュ通知」が大きなメリット
Webサイトは利用者が自分からアクセスしなければ情報を届けにくいのに対し、アプリではプッシュ通知を利用できます。
通販ならセール開始、飲食店ならクーポン、交通サービスなら運行情報、金融サービスなら入出金通知などを直接スマートフォンへ表示できます。
利用者にとって便利な通知もありますが、企業にとっては再訪を促すマーケティング手段でもあります。そのためWebだけで完結できるサービスでも、アプリへ誘導したがるケースがあります。
「アプリ限定」にすると企業側が顧客を囲い込みやすい
ブラウザ検索では、利用者は競合サービスを簡単に比較できます。例えばホテルを探す場合、複数の予約サイトをタブで開いて料金を比較できます。
一方、一度特定サービスのアプリをインストールして会員登録し、ポイントやお気に入り情報を蓄積すると、そのアプリを繰り返し利用する可能性が高くなります。
つまりアプリには便利さだけでなく、企業が利用者との接点を維持しやすくする「囲い込み」の側面もあります。
PCなら数秒なのにスマホでは手順が増えることもある
アプリ中心の設計がすべての利用者に効率的とは限りません。特にPCを日常的に使っている人では、Web検索のほうが圧倒的に速い作業があります。
例えばPCなら検索エンジンで店舗名を入力し、営業時間を確認するだけで終わるところを、「アプリをインストール→規約確認→アカウント作成→SMS認証→位置情報許可→店舗検索」と進めなければならないサービスがあります。
情報を一度確認したいだけの利用者には、アプリを導入するコストのほうが大きくなります。
PCは大量の情報を比較するときに強い
スマートフォンは持ち運びには優れていますが、大画面、キーボード、マウスを利用できるPCには別の強みがあります。
旅行先を調べながら地図、ホテル、鉄道、口コミを複数タブで比較する、商品スペックを一覧表で確認する、長い申込書へ住所や勤務先を入力するといった作業ではPCのほうが快適なことがあります。
スマートフォンだけを前提にすると、このような「調べながら比較する作業」の効率を下げる場合があります。
「スマホを持っている=スマホ操作が得意」とは限らない
スマートフォンの普及率が高くても、すべての人がアプリのインストールやアカウント設定を得意としているわけではありません。
アプリストアのパスワードが分からない、空き容量が不足している、SMS認証が苦手、文字が小さく操作しにくいなど、人によって困難は異なります。
デジタル庁も「誰一人取り残されない、人にやさしいデジタル社会」の実現には、高齢者や障害のある人を含め、誰もが情報やサービスを利用できるアクセシビリティが重要だとしています。[参照:デジタル庁 ウェブアクセシビリティ]
アプリ必須化はデジタルデバイドを広げることがある
アプリしか利用方法がないサービスでは、対応スマートフォンを持っていない人や、古いOSを使用している人がサービスから事実上排除されることがあります。
例えばアプリが新しいiOS・Androidだけを対象にすると、端末自体は正常に使えていてもOSの更新対象外になっただけで利用できなくなることがあります。
Webサービスも提供していればPCや別端末からアクセスできますが、アプリ専用ではスマートフォンの買い替えが実質的な利用条件になる場合があります。
実際にアプリは古いスマートフォンを切り捨てることがある
セキュリティやOSの仕様変更に対応するため、アプリが古いOSのサポートを終了すること自体は珍しくありません。
例えばデジタル庁のマイナポータルアプリでも、2026年5月からiOS 16.4未満の端末をサポート対象外とする案内が行われています。[参照:デジタル庁 マイナポータルアプリ]
セキュリティ上必要な対応ではありますが、「アプリしか入口がないサービス」では、こうした対応端末の変更が利用者に大きな影響を与えます。
アプリを増やしすぎるとスマホ側にも負担がかかる
たまにしか使わないサービスのために専用アプリを次々インストールすると、スマートフォンのストレージを消費します。
さらにアプリごとのアップデート、通知設定、ログイン情報、権限設定などを管理しなければなりません。
年に一度しか利用しない施設やイベントまで「専用アプリ必須」になると、利用者にとって管理コストが大きくなります。
アプリごとに会員登録を要求される問題
アプリを入れるだけでなく、メールアドレス、電話番号、氏名、生年月日などを登録しないと利用できないサービスもあります。
便利な機能を継続利用するサービスなら会員登録に意味がありますが、一度情報を調べるだけの利用者まで登録必須にすると負担が大きくなります。
利用者側では、登録先が増えるほどパスワード管理や個人情報漏えい時のリスクも増えます。
アプリには権限とプライバシーの問題もある
スマートフォンアプリでは、位置情報、カメラ、マイク、写真、Bluetooth、通知などへのアクセス許可を求められることがあります。
機能上必要な権限もありますが、利用者からすると「営業時間を調べたいだけなのになぜ位置情報が必要なのか」と感じるケースもあります。
アプリを使用するときは、表示される権限を何でも許可するのではなく、その機能に必要なのか確認し、不要な権限は拒否することもできます。
Webブラウザには「インストール不要」という大きな長所がある
Webサービス最大の利点は、基本的にURLを開くだけで利用を始められることです。
Windows、Mac、Android、iPhoneなど端末が違っても、標準的なWeb技術で作られたサービスなら同じURLへアクセスできます。
さらに検索エンジンから直接目的のページへ移動できるため、「一度だけ営業時間を知りたい」「料金だけ確認したい」といった用途にはWebのほうが合理的です。
検索エンジンから情報を見つけられるのもWebの強み
Webページは検索エンジンに登録されれば、サービス名を知らない人でも情報へたどり着けます。
例えば「新宿 駐車場 最大料金」と検索して複数施設を比較できますが、情報がアプリ内にしかなければ、まずどのアプリを入れるべきなのかを知らなければなりません。
公共性の高い情報や比較される情報ほど、Webからもアクセスできる価値があります。
アプリのほうが本当に向いているサービスもある
一方で、すべてをWebだけで提供すればよいわけでもありません。スマートフォンアプリだからこそ便利なサービスもあります。
例えば地図ナビ、QRコード決済、交通系チケット、フィットネス記録、カメラを使った本人確認、Bluetooth機器の設定などです。
これらはスマートフォンを持ちながら利用すること自体に意味があるため、専用アプリの合理性があります。
「アプリがあること」と「アプリを強制すること」は分けて考える
利用者にとって理想的なのは、アプリを使いたい人には高機能なアプリを提供し、簡単な情報確認や手続きはWebでも行える状態です。
例えば頻繁に利用する人はアプリで通知やお気に入り機能を利用し、年に一度しか利用しない人はWebから予約する、といった選択ができます。
問題になりやすいのは「アプリを提供すること」そのものではなく、本来Webでも十分できる操作までアプリ専用にして選択肢をなくすことです。
公共サービスほど複数の利用方法を残す価値がある
行政、医療、交通、金融など生活に必要なサービスでは、特定の端末だけに依存すると利用できない人が生まれる可能性があります。
デジタル庁も、ウェブサービスやウェブアプリケーションについて「使い勝手」「情報の探しやすさ」「アクセシビリティ」を向上させ、誰もがデジタル化の恩恵を受けられることを目標としています。[参照:デジタル庁 政府情報システムのUI改善]
スマートフォンに慣れている人だけではなく、PC利用者、高齢者、障害のある人なども含めて設計することが重要です。
PCを使いたい人は「Web版」がないか探してみる
アプリを勧められていても、実はWeb版が用意されているサービスがあります。
検索するときはサービス名に「Web版」「ブラウザ版」「PC」「ログイン」などを付けると、アプリを使わず利用できるページが見つかる場合があります。
またスマートフォン向けサイトがPCブラウザでも動作するケースがあるため、「アプリ必須」と思い込む前に公式サイトを確認するとよいでしょう。
QRコードだけ表示されている場合もURLを確認する
店舗や広告で「こちらからアクセス」とQRコードしか表示されていないことがあります。
QRコードはスマートフォン専用に見えますが、中身が単なるWeb URLならPCからも同じページを開けます。
一方、QRコードがApp StoreやGoogle Playへのリンクになっている場合にはアプリのインストールが必要です。
PWAならWebとアプリの中間的な使い方もできる
Web技術にはPWA(Progressive Web Apps)と呼ばれる仕組みがあり、Webサイトをアプリに近い形で利用できます。
対応サービスならブラウザから利用しながら、必要に応じてホーム画面へ追加し、アプリのように起動できます。サービスによっては通知やオフライン機能なども利用できます。
すべてのサービスで利用できるわけではありませんが、「必ず専用アプリを作る」という方法以外にも選択肢があります。
サービス提供側が考えたい設計
| 利用目的 | 向いている提供方法 |
|---|---|
| 営業時間・料金などを見る | Webで公開 |
| 商品や施設を検索する | Web・アプリ両方 |
| 一度だけ予約する | Webでも可能にする |
| 頻繁な予約・会員管理 | アプリが便利 |
| プッシュ通知 | アプリが便利 |
| 位置情報を常用するサービス | アプリが便利 |
| 公的情報を確認する | Webを含む複数経路が望ましい |
用途ごとに適した手段を使い分ければ、「何でもアプリ化」する必要はありません。
利用者にアプリを入れさせるほど便利なのかを考える必要がある
サービス設計では、企業側の便利さだけではなく利用者が支払う「手間」もコストとして考える必要があります。
アプリをダウンロードし、会員登録し、SMS認証し、権限を設定するまで5分かかるのに、利用目的が「今日の営業時間を見るだけ」であれば釣り合いません。
逆に毎日利用する決済アプリなら、最初に数分設定しても、その後の利便性によって十分回収できます。
スマホ中心社会でもPCが不要になったわけではない
スマートフォンだけで生活の多くをこなせるようになった一方、PCには現在も明確な強みがあります。
長文入力、大量のデータ処理、表計算、プログラミング、複数資料の比較、大画面での情報収集などではPCが適しています。
そのため、「スマートフォンが普及したからPC向けサービスは不要」という単純な話ではありません。用途に応じて双方を使い分けることが合理的です。
スマホ至上主義への違和感はアクセシビリティの問題でもある
「PCからやりたいのにスマートフォンしか選べない」という問題は、単なる好みだけではなくアクセシビリティにも関係します。
大画面でなければ文字を読みづらい人、キーボード入力を必要とする人、スクリーンリーダーをPCで利用している人など、利用環境にはさまざまな事情があります。
デジタル庁も、障害のある人や高齢者を含むすべての人がWeb上の情報・サービスを利用できることを重要視し、JIS X 8341-3やWCAGを活用したアクセシビリティ向上を進めています。[参照:デジタル庁]
理想は「スマホファースト」ではなく「利用者が選べること」
スマートフォンを中心に設計すること自体には合理性があります。利用者が多く、カメラ・位置情報・通知・決済など多彩な機能を利用できるためです。
しかし、PCで簡単にできる操作までスマートフォンアプリだけに限定すると、一部の利用者に余計な作業を押し付けることになります。
サービスによって必要性は異なりますが、Web、スマートフォンアプリ、PCなど複数の方法から利用者が選択できる設計が望ましいといえます。
まとめ:スマホ中心になる理由はあるが「何でもアプリ必須」が最適とは限らない
スマートフォン中心のサービスが増えた背景には、スマートフォンを日常的に利用する人が多いことに加え、カメラ、位置情報、生体認証、決済、プッシュ通知など端末固有の機能を活用できるという理由があります。
また企業側には、アプリをホーム画面へ置いてもらい、通知やポイントによって継続利用を促しやすいというメリットがあります。そのため、Webで実現できるサービスまでアプリへ誘導するケースが増えています。
一方で、「PCなら検索して数秒で終わることのために、アプリをダウンロードして会員登録しなければならない」という設計は、利用者側から見れば必ずしも便利ではありません。アプリのインストール、アップデート、ストレージ消費、アカウント管理、権限設定など新たな負担も発生します。
さらに、スマートフォンを持っていない人、古い端末を使っている人、PCのほうが操作しやすい人、高齢者や障害のある人などもいます。デジタル庁が掲げる「誰一人取り残されない、人にやさしいデジタル社会」という考え方からも、利用手段を一つに限定しないことには意味があります。[参照:デジタル庁 ウェブアクセシビリティ導入ガイドブック]
アプリが優れているサービスではアプリを使い、情報確認や一度だけの予約などはWebでも利用できるようにする。そのうえで利用者が自分に合った方法を選べる状態が、スマートフォンとPCのどちらか一方を優先するより使いやすいデジタルサービスといえるでしょう。


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